またしても、エージングの話について。

 母の容態が暮れ頃から悪く、何とか良い方向へは向かってきているようでは有るが、まったく口を利かなくなってしまった。これまでを考えて見るに、色々と心配して、良くなる様にしてきたつもりでは有ったが、所詮、元々、何が出来るわけでもなく、結果として、良くなる事に貢献できた事は殆どなかったと言って良い。かえって、足を引っ張るだけだったかもしれない。それに、自分のことも止めて看病する程、献身的な人間でもない。

 エージングとは、そのものずばり、年を取る事である。年を取ると人間丸くなると言うが、確かに若い頃のような、スピード感、判断力、洞察力、体力、殆どの面において、鋭い切れ味を発揮する事は、不可能に近い。確かに、年をとっても現役選手などという、特別な人もいるが、それは、衰えを何とか遅らしてきた事と、年を取る事のメリットを上手に生かしてきたからに違いない。本人が一番分かっているのだろうが、ある程度以上に年を取れば、必ず、出来なくなることが増えていく。

 確かに、若くして成しえなかった事を、年を取ってから遂げる事が出来た人も勿論いるに違いないのだが、それは、本人だけの問題ではないと言う事だろう。社会的、文化的に評価されると言う事は、必ずしも、その時何が出来るかではなく、今まで何をしてきたかが重要だから、そういうことも、大いにありえるのだろう。

 ところで、エージングだが、色々な分野で使われていると思うが、比較的良い意味で使われている事が多いような気もするのだが、本当にそうだろうか。

 オーディオの分野では、ヘッドフォン、アンプ、スピーカー、DA、AD、プレイヤーなどなどあらゆる物について、エージングが必要だと言われているようだが、確かに自分も、エージングの必要性を実感した事は、以前少し触れた事があったが、本当に聴き易く、かといって、全て丸くなってしまうわけではなく、中域の音の出が良くなったり、耳元でごちゃごちゃと鳴っていた音が整理されたように感じた。

 だが、最近、ヘッドフォンアンプと、ニンロクのヘッドフォンを購入し、特にエージングしない状態でも、充分にその良さを感じる事ができたので、こだわらずに聴き続けていたのだが、今回少し、エージングのつもりで、普通の音量で、10時間ぐらい掛けっぱなしにしておいた。

 趣味の問題もあるのだが、10時間のエージング後の音は、角が取れたと言えば聴こえは良いが、尖がった部分がどこかへ言ってしまった様な一抹の寂しさを覚えたと言うのが本音だ。

 前にエージングの効果を感じたヘッドフォンは、良く調べて見たら、そうなるまでに、なんと、1年近くかかっていた。これを、2、3日で済ますことも当然可能なのだろうが、はたして、人間にたとえて、(普通は逆か?)子供を、早く成長させて大人にするような物だとは考えられないだろうか。そのような事をするのが果たして良いことだろうか。

 そんな暇はないんだと言ってしまえばそれでお終いなのだが、出来ればじっくりと、尖った音から、少しずつ、変化して行くのをを感じながら、その過程を楽しむ事は出来ないのだろうか。

 また、どんな曲が、この機材にあっているのだろうか(これも本当は逆か。沢山の中から気に入った物を選ぶ事が出来ない環境なので仕方が無いのだが)とか、いろんなことを考えながら、聴く事の楽しみの幅を広げていく事は出来ないだろうか。

 最後にもう一つ、エージングの必要性は、必ずあると世間一般(と言うかオーディオファンからマニアまで)で考えられているのかどうかよく分からないが、個人的意見を言わせて貰えば、本当の意味で、完成度の高い物は作った状態のまま、それでほぼ最高の音を出すことが出来るのが、理想形ではないだろうか。

 簡単にエージング出来ると言う事は、一方で、経年変化に弱いと言う見方も出来る。何年、十何年と使い続ける事の出来る機器は、あまり大きな経年変化があってはならないのではないか。

 素人考えで申し訳ないが、高級ヘッドフォンとはどんな物なのかを、何年も聴き続けている人には分かるのだろうが、今の時点で無理矢理自分勝手な結論を、敢えて出させてもらうならば、やはり高級ヘッドフォンは、素材も丈夫なもの、時には、軽さを犠牲にしても、強度の高い素材を使ったり、ヘッドフォンアンプも、充分なドライブ能力を持った高性能の物を要求するような、そういう作りになっているヘッドフォンが多いように見受けられる。

 良い音を出せるようにする為には、やはりそれなりの、強さ、大きさ、高能率、高純度、あらゆる素材も、最高の物が求められる。そう考えると、経年変化で簡単に特性が変わってしまうようなものは、長く使い続けるのも難しいに違いない。

 勿論、軽くて強度のある素材も、小さな力で大きな音が出せるドライバも年とともに次々と新しい物が開発され、使われているだろうが、本質的には、限界があるだろう。

 そう考えて見ると、今の自分のシステムが、丈夫なのか、それとも、変化しやすいタイプなのかは、よく分からないが、無理をして、2、3日でエージングを済ましてしまわなくても良いじゃないか、キンキンした音もそれはそれで、暫く体験して見るのも良いかともおもったのだが。果たして、今後、エージングの影響はどう現れて来るのだろうか。