勧善懲悪、「よいではないか」。

 昔、プロレスでは、力道山という人気者がいたが、刺し殺されて、死んじゃった。ジャイアント馬場は、16文キックを武器に、極悪プロレスラーブッチャーと戦って、悪を叩きのめした。アントニオ猪木は、顎を武器に、やはり悪と戦った。

 悪役レスラーというものが、最初から居て、使ってはいけない武器を使い、販促技を次々に繰り出し、皆の欲求不満を一身に引き受け、悪に徹して、(というか存在そのものが悪だろ)額に傷を作り、自らも血を流しながら戦った。

 何時の日からだろうか、悪役だったプロレスラーが、ホントはいい人なんだなんていわれ始めたのは。

 プロレスの世界も、昔とは随分変わっただろうが、ある意味、マニア向けの方向に向かっていき、素人でも分かるような、これぞ日本といえるようなヒーローは、よく分からなくなってしまった。(最近は全く見ないので、多分ヒーローは存在するのだろうが、めったに見ない人にとってはよく分からない)。

 勧善懲悪はある意味、文化である。これが無いと、世の中の人はちっとも面白くない。強い物が勝って弱い物が負ける、唯それだけでは、何の面白みも無い。誰も見てくれない。

 やはり、魁皇や、その前では、貴乃花若乃花千代の富士、輪島、大鵬なんたらかんたら、何故相撲協会が、今のような事態になってしまったか。八百長が存在する事など、何十年も前から、かなり多くの人が、薄々感じていた。でもそれでよかった。お客様を喜ばせてくれるのが一番の目的であって、ヒーローは常に強くて正しくなければならず(勿論、日本人である事は大々大前提である)、悪役は、決して裏でもいい人であってはいけなかった。

 相撲も、プロレスも、そのほかにもいっぱいあるだろうが、フェアプレイの精神は、あくまで輸入された物であって、日本で育った物ではないというのは極端か。武士道は「正義」というより「お手本」であって、「悪役」を必要としていない。唯ひたすら己の生き方を問うているだけで、他人と比較して、どうこう言う物ではないだろう。フェアプレイは日本人にはそぐわない、といってしまえば、悪役として合格か。

 民主党が、今一悪役として弱すぎる。勿論、ヒーローになる道も、僅かではあるが、存在したのだろう。しかし、自民党を悪役にするにはあまりに弱すぎた。むしろ、悪役を買って出て、国民から反感を買い捲り、そこで待ってましたとばかりに正義のヒーローに戻った自民党が、ばっさばっさと、民主党を切り倒す、そのシナリオの方が、国民に受けて、皆のやる気を掻き立てたかもしれない。

 原爆を落としたアメリカは、むしろ「正義」を行ったのだといっているようだが、たぶん、内心そう思っているアメリカ人は、思っている程少なくはないだろう。アメリカ人にとっても「悪役」は必要であり、やはり、スーパーマンのような、人間的に尊敬できるような「正義」を求めているのだろう。

 何処でどう歯車が狂ったのか。何時からヒーローは弱くなってしまい、悪役は、「そんなに悪い人ではない」事になってしまったのだろうか。

 世の中が複雑化したせいだろうか。グローバル化の中で、日本人にとっては「正義」でも、外国では必ずしも「正義」と認められなくなってしまったという事だろうか。それはそれで、それぞれの国の事情が有り、仕方の無い事なのだろう。

 絶対的「正義」など、有りはしないのだが、やはり、生きていく目標として、「正義」のような物は、必要なのだろう。

 しかし、自分は、悪役を甘んじて受ける程、器の大きい人間ではない。でも、必ずしも正義が必要だとも思っていない。勿論自分が正義だというつもりはさらさら無い。唯、自分に悪いところがあっても、悪役にされないように、時には突っ張り、時には逃げ回り、何とか攻撃をかわそうとしているだけの事だ。

 中国人が日本人の事を嫌いだと言っている人が居る様だが、一応多数派であるようなことを言っていた。それを鵜呑みにするのもなんだが、やはり中国にとっても「悪役」は必要不可欠なのだろう。

 民主党が政権をとって、明治維新が実現されるには、あまりにグローバル化されていたと言うことだろう。別に自民党時代でも、鎖国していたわけではなく、色々な企業が海外へ進出していた。
民主党が、国民に夢のある社会の実現を、見せてくれるには、あまりにも今の日本は、裕福だったという事か。

 フリーター、ニート派遣社員、どれも日本人の生き方としては、真っ当でない、いわば、「悪役」の部類に属するのだろうが、実は、正社員を首にして派遣社員を増やす事で、会社の利益体質は改善し、正社員も、安穏で居られなくなり、尻を叩かれるような思いをしている人も居る事だろう。

 誰が偉くて、誰が悪いのか、誰が、誰に、依存しているのか。本当はどうあるべきなのか。借金体質を作ったのは誰なのか。何百兆円という借金はどうやって生まれたのか。此処まで言えば、「悪役」としては、80点くらい取れるだろうか。

 此処まで言えば、さすがに仕事がなくなるのも当たり前か。